穂足(ほたる)のチカラ

熊本日日新聞の朝刊に連載されている梶尾真治さんの小説「穂足のチカラ」を毎日楽しみに読んでます。現在も連載中ですけど、思ったことを少し。

  • あらすじ


熊本市に住む海野家は6人家族。家長の浩はリストラ寸前、妻の月代はギャンブル狂いで莫大な借金を隠している。浩の父の十三夫は認知症が進み、長女の七星は父親不明の息子・穂足を抱えているが恋愛中毒症。そして長男の太郎は引きこもりという、崩壊した家庭である。
唯一の家族の共通点は、穂足の純真無垢さを愛しているということ。4歳の誕生日を前に、穂足は時おり不思議な能力を見せるが、ある日突然の事故に遭遇する・・・。

  • 海野(うんの)家の家族構成

業績不振でリストラに怯える夫:浩、パチンコ依存症で借金取りに追われる妻:月代、認知症の祖父:十三夫、シングルマザーの長女:七星(穂足の母)、引きこもりで不登校の長男:太郎、そして、不思議なチカラを持つ幼児:穂足。

〜 ↓ここからネタバレです↓ 〜

ある日、穂足は太郎の不注意により事故に遭って意識を失ってしまう。見舞いに駆けつけた家族たちは、意識不明の穂足の体に触れることで不思議なチカラを身につける。穂足に触るとビリッと静電気のようなものが走り、家族も不思議な能力を授かる。そのチカラで各人の抱えていた問題が次々に解決され、状況が好転してゆく。
なぜだろう?
と疑問を感じていた海野家に三賢人と呼ばれる3人の老人たちが現れ、穂足の秘密を明かす。約2,000年前、キリストを遣わした神≒宇宙の意志は言葉によって人類に変革をもたらそうとしたが、どうやら失敗したようだ。今回、宇宙意志は直接触れ合うことによって変化を起こそうとしているらしい。そのために遣わされたのが穂足である、と。(三賢人が触れたことで穂足は意識を取り戻す)
この話を聞いた家族は、自分たち自身の意識の変化を自覚し、職場や学校で触れた人たちが皆、前向きな考えに変わっているのを実感する。借金取りの人たちも足を洗ってやり直す、と言っていた。穂足の体に触れた者は皆、気がふれて前向きになってしまった。
前向きで明るい性格に変わってゆく人々。ただ握手を交わしただけで。
そして海野家は決断する。毎日一人以上の人と握手することによって、幸福を広めることを。握手された人は別の人と握手する。しあわせの握手。この握手の連鎖によってポジティブ指向(思考)を広げようというのです。*1

〜 ↑ネタバレは以上↑ 〜

これを良い話だと思って読んでいる人(熊日読者)がどのくらいいるのか知らないけど、私はこれは怖い話だと思う。一種のホラー小説でしょ。サイコかな?
要するに、「人間の自我は不完全だ」「人類は失敗作」と神から認定されてしまったので半強制的に意識を塗り替えられる、という話です。握手したら最後、洗脳されてしまうのです。今のところ、握手活動に疑問を呈する人物は作中に登場していない。


なんだかだんだんときな臭くなってきました。
全人類が同じ考えを持つ。それって本当に幸せなの?

私と似たような疑問を持つ読者の方がおられました。

えっ?幸せになれるのだからいいだろって?ポジティブ万歳!ですって?
私は、自分の意識は自分でコントロールしたいよ。知らない間に自我がオーバーライトされるような事態は避けたいものです。
この私の感覚は「幸せに対する恐怖」なのだろうか?
小説「穂足のチカラ」の今後の展開に期待しつつ、読書感想文を終えます。

*1:握手による人類補完計画ですね。